NDM-1産生多剤耐性菌 | 細菌とウイルス | お役立ち情報 | 株式会社 東邦微生物病研究所

カテゴリー

  LINEで送る  
依頼書ダウンロード ア ク セ ス 初めての方へのご案内 検査ご案内 営業部アッピール 技術的事項のお問い合わせ 許認可

NDM-1産生多剤耐性菌

 

 

2009年9月、帝京大病院は多剤耐性菌アシネトバクターの院内感染を公表しました。メディアでは、感染者数や死亡者との因果関係について報じられ、多剤耐性菌や院内感染への関心が急激に高まりました。

また最強の抗生物質すら効かないNDM-1産生多剤耐性菌も日本に上陸しました。この遺伝子は赤痢やチフスなど強い病原性を持つ細菌にもうつる可能性が指摘されています。迫りくる多剤耐性菌の脅威に私たちはどう向き合えばいいのでしょうか。今回はNDM-1産生多剤耐性菌の脅威についてお話させていただきます。

NDM-1産生多剤耐性菌とは

NDM-1とはニューデリー・メタロβラクタマーゼ-1(New Deli Metallo-β-Lactamase-1)の略で、NDM-1はβラクタマーゼの一種であるメタロβラクタマーゼに分類される酵素で最強のカルバペネム系抗菌剤を分解する遺伝子を持った細菌のことです。

NDM-1産生多剤耐性菌は、その他フルオロキノロン系やアミノグリコシド系抗菌剤にも耐性を示すといわれています。

NDM-1産生菌の出現

NDM-1産生菌の出現はインドやパキスタンで報告され、日本で最初にNDM-1産生菌の検出を公表したのは獨協医大病院です。

2009年4月に入院したインドからの帰国者からNDM-1産生大腸菌を検出しました。また、2010年8月にさいたま市民医療センターに入院した患者の尿からNDM-1産生肺炎桿菌が分離されました。いずれも1例の検出にとどまり、感染が拡大することはありませんでした。ただ2例目の患者には海外渡航歴がないため、既に市中に感染が拡大している可能性があるとされています。

NDM-1はメタロβラクタマーゼの1つですが、メタロβラクタマーゼを産生する菌はこれまでにも国内でも多数報告されていました。もっとも多く報告されているのが、多剤耐性緑膿菌と多剤耐性アシネトバクターです。

多剤耐性緑膿菌は、院内での難渋する菌の一つと言われています。

緑膿菌は土壌や水中、動物の皮膚などに常在する菌で、多剤耐性緑膿菌はカルバペネム系、アミノグリコシド系、キノロン系抗菌剤の3種類の薬剤にたいする耐性を獲得したもので、2009年に日本化学療法学会が全国の752施設を対象に実施した調査では、7割近くの病院が検出したと回答し、うち約半数の施設で尿路感染症などを引き起こしていました。

また、昨年帝京大病院で騒動の原因となった多剤耐性アシネトバクターは、ほとんどの抗菌剤に耐性を示すといわれ、免疫低下状態にある患者においては注意すべき存在となっています。

 

日本に上陸したNDM-1産生菌

日本に上陸したNDM-1産生菌の重要なポイントは、この酵素を産生する菌が大腸菌や肺炎桿菌である腸管細菌科から分離されたこと、NDM-1遺伝子がプラスミド(染色体DNAとは独立した細胞核の外にある環状の小さなDNA)にあることです。

プラスミドは接触した他の菌に伝播しやすく、同じ腸管細菌科に属し、かつ病原性の強いチフス菌や赤痢菌に耐性遺伝子が伝播・蔓延した場合には、抗生物質が効かない為、重症・難治例が増加するものと危惧されています。

感染防止対策

新たな多剤耐性菌の出現に受けて、今後我々はどう対応すればいいのでしょうか。第一にNDM-1にも対抗できる新しい抗生物質の開発です。しかしながら、多くの製薬メーカーは、開発に多くの時間と費用が必要とされ、収益の出にくいため抗生物質の開発から撤退する企業が多く、これらはあまり期待できません。

最も重要なのが実際の医療現場での感染防止対策の強化です。院内感染対策で最も重要視されているのが手指衛生です。アルコール製剤の手指消毒器を各所に配置して手指消毒を徹底する。特にスタッフの供用物を汚染させない為に、医局やスタッフルームのパソコン前、カルテ保管にもアルコール製剤を配置する必要があります。

次に多剤耐性菌が検出された患者の隔離です。1人の感染者が見つかった時点で複数の保菌者が想定される菌もあるため、保菌者の隔離と他の患者から菌が検出されていなくても、周辺の患者からの接触感染対策にも注力しなければならない。

 

厚生労働省からはNDM‐1産生株が検出された場合の対応として、次の4項目を示されています。

(1) 患者を個室管理し、標準予防策、接触感染予防策を励行し、他の患者に伝播しないよう感染予防対策を実施。

(2) NDM‐1産生株が便や喀痰などから検出されたものの、感染徴候が認められない無症状病原体保有者の場合は、抗菌薬による除菌は行わず、標準予防策、接触感染予防策を励行しつつ、やがて消失するのを待つ。

(3) NDM‐1産生株による感染症を発症した患者の場合は、患者の病状を考慮して、抗菌薬療法を含む積極的な治療を実施。

(4)患者の海外渡航歴および渡航先での医療機関の受診歴を詳細に聴取する。

 

医療従事者以外の人達が気をつけるべきことは、病院へお見舞いに行った際、自分が菌の媒介者にならない為にも、病室の入退室時に手指の消毒を行うことが大切です。

その他の情報は、厚生労働省のホームページに一般向けの情報(多剤耐性菌についての一般の方向けの情報)として掲載されています。興味のある方はご覧下さい。

 

参考文献 :

NHK教育 2010年11月13日放送分

サイエンスZERO「多剤耐性菌 NDM-1の脅威」

日経メディカル2010年11月号

社)日本感染症学会ホームページ

https://www.kansensho.or.jp/modules/topics/index.php?content_id=11

厚生労働省ホームページ

http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/dl/ndm-1.pdf

http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/multidrug-resistant-bacteria.html