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判例に学ぶ食中毒事件の製造物責任「シガテラ毒素食中毒事件」

 

シガテラ毒素食中毒とは

シガテラ毒素を原因とする食中毒は、シガトキシンとその関連毒によって起こるもので、海藻の表面に棲息する鞭毛藻により生産される毒が食物連鎖により魚に蓄積され、それをヒトが摂取することによって発症するものといわれています。

症状としては、下痢、嘔吐・吐き気、ドライアイスセンセーション(冷感亢進)(水や金属などの冷たい物を飲んだりこれらに触れたりすると電気ショックのような刺激を感じる。)、運動失調、脱力感、倦怠感、関節痛、掻痒などがあります。

 

イシガキダイ・シガテラ毒素食中毒事件

平成11年8月13日、割烹料亭においてイシガキダイのアライ、兜の塩焼き等の料理を喫食し、イシガキダイに含まれていたシガテラ毒素を原因とする食中毒が発生しました。

イシガキダイ料理によるシガテラ毒素食中毒に罹って損害を被ったとして,製造物責任(製造物責任法3条)又は瑕疵担保責任(民法634条2項)に基づき損害賠償を求めた事案の判例で損害賠償を認める判決となりました。

 

その争点となり、注目された判決内容をご紹介します。(読みやすくするため、なるべく平易な文体に変更してあります。)

 

製造物責任(製造物責任法3条)イシガキダイの調理が、製造物責任法上の「加工」の概念に該当するか。

 

「製造物責任」は、平成7年7月1日施行された製造物責任法により創設された法的責任です。

製造物の欠陥によって他人の生命、身体又は財産を侵害した場合に、被害者に生じた損害を製造物の製造者に賠償させることを内容とするものです。

製造物責任を負担させるに当たり、製造者の過失を要件としていません

従来の過失責任主義を修正した本法の立法趣旨は、「被害者救済の見地からの立証負担の軽減にある」と解されます。

従来、被害者が直接の契約関係にない製造者に対して損害賠償責任を追及する場合には、製造者の過失があったことを被害者が立証する必要がありました。

しかし、製品事故等が発生した場合に、専門的知識を有しない被害者が科学的、技術的に高度化した製品の製造過程等の過誤を調査することは困難ですし、大規模の事業者の個々の従業員などの過失行為を特定して立証することには更に多大な困難を伴います。

そこで、本法では、製造物責任を追及する場合、過失に代えて、「客観的性状である製造物の欠陥」を要件とすることで立証の負担を軽減して被害者の保護を図っているものです。

 

製造業者が過失を要件としないで損害賠償責任を負担するものとされた根拠としては、下記の法理が挙げられます。

 

①     危険責任

製造物の安全性の確保は、その製造又は加工の過程に携わる製造業者に依存しており、製造物の持つ危険性を制御すべき立場にある製造業者がその危険が現れた場合の損害を負担すべきである。

 

②     報償責任

製造業者は製造物を製造又は加工するというその事業活動によって利益を得ており、製造物の欠陥によって他人に損害を与えた場合には利益を得ている製造業者においてその損害を負担すべきである。

 

③     信頼責任

利用者は製造業者が製造物の安全性を確保していることを信頼して利用しており、この信頼に反して損害が発生した場合には、信頼を与えた製造業者が損害を負担すべきである。

 

本法は、「製造物」を「製造又は加工された動産」と定義し(法2条1項)、製造物の欠陥により発生した損害について製造業者等が賠償責任を負うものとしています(法3条)。

 

製造物の「欠陥」の意義については、製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が製造物を引き渡した時期その他の製造物に係る事情を考慮して、製造物が通常有すべき安全性を欠くことをいうとの定義規定(同条2項)があります。

 

しかし、「製造又は加工」の意義については特に定義規定がありません。

 

法において「製造又は加工」された動産のみが製造物としてその適用対象とされているのは、「製造又は加工」の過程を経た人為的産物について製造業者等に製造物責任を負わせることが、上記の危険責任、報償責任、信頼責任の各法理に照らすと適切であり、一方、未加工農林水産物など自然の状態から収穫された一次産品を製造物の範疇から除外して、製造物責任の成立する範囲を明確化した趣旨であると解されます。

 

この観点から、「製造又は加工」とは、原材料に人の手を加えることによって、新たな物品を作り(「製造」)、又はその本質は保持させつつ新しい属性ないし価値を付加する(「加工」)ことをいうものと解するのが妥当です。

そこで、食品の加工について、具体的にいえば、原材料に加熱、味付けなどを行ってこれに新しい属性ないし価値を付加したといえるほどに人の手が加えられていれば、法にいう「加工」に該当するというべきです。

 

以上の検討結果に基づき、料亭側がイシガキダイを調理して料理にしたことが、法にいう「製造又は加工」に該当するか否か。

 

料亭側は、イシガキダイという食材に手を加え、客に料理として提供できる程度にこれを調理したものといえるから、この料亭側の調理行為は、原材料のイシガキダイに人の手を加えて新しい属性ないし価値を加えたものとして、法にいう「加工」に該当するものといえ、また、料理は、動産であることは明らかなので加工された動産として製造物に該当します。

 

また、食品は、その性質上、無条件的な安全性が求められる製品であり、およそ食品に食中毒の原因となる毒素が含まれていれば、食品は通常有すべき安全性を欠いているものというべきであるから、料理がシガテラ毒素を含んでいたことは、製造物の欠陥に該当することから、料亭側は、法3条に基づき、このような製造物の欠陥による製造物責任を負うものというべきとするのが相当です。

 

法3条にいう製造物責任を負うべき主体は、製造物を「業として」製造、加工又は輸入した者(若しくはそのような表示をした者)に限られている(法2条3項)のであって、製造物責任の主体となり得るか否かは、製造物の製造、加工又は輸入を業として反復継続する者であるか否かによって決定されることは明らかです。

また、法が製造業者等の事業態様や経営規模については特段の制約を設けていません。

法が製造業者等の事業態様や経営規模について特段の制約を設けていないのは、危険責任及び報償責任の観点を背景としつつ、さらに、製造物の製造、加工又は輸入を反復継続することを予定する業者としては、そのような業務を行うに当たって、製造物に欠陥が存在した場合には過失を前提としない製造物責任を負担すべき危険が伴うことを企業計算に織り込み、このような危険を分散、回避するための措置を予め講じておくことが可能であることも考慮に入れたものであると解されます。

 

製造物責任法4条1号のいわゆる「開発危険の抗弁」が成立するかどうか。

 

法4条(開発危険の抗弁)は、製造業者等が「製造物をその製造業者等が引き渡した時における科学又は技術に関する知見によっては、製造物にその欠陥があることを認識することができなかったこと」(同条1号)を証明したときは、法3条の製造物責任を負わない旨を規定しているものです。

 

この規定の立法趣旨は、製造業者が科学技術に関する知見を如何に駆使しても製造物に存在する欠陥をおよそ認識することができない場合には、そのような欠陥による損害の発生も賠償すべき責任の限度も全く予測できないにもかかわらず、なお製造業者が製造物責任を負担しなければならないとすると、製造業者においてこのような負担を恐れて新製品の開発意欲が失われ、研究開発や技術革新が停滞し、ひいては産業活力が損なわれて国民経済の健全な発展が阻害されると考えられたため、政策的配慮から、このような事態を回避しようとしたことにあります。

一方、「開発危険の抗弁」が安易に認められると、被害者救済を目的とする製造物責任制度を導入した意義が失われることは明らかであって、上記のような政策的配慮を背景とする開発危険の抗弁の立法趣旨に鑑みれば、その適用範囲は限定的に運用するのが妥当です。

 

科学又は技術に関する知見」の基準は?

 

法には、不法行為における「加害者の過失」という主観的な要件ではなく、物の客観的性状である「製造物の欠陥」を要件とすることで、主観的な要素である「加害者の過失」の判断に必然的に伴うばらつきを解消し、製品事故における損害賠償責任の法的安定性を確保する意義もあると解されるから、この観点からすると、「科学又は技術に関する知見」の基準を加害者の知見に求めるのは妥当ではありません。

 

法4条1号にいう「科学又は技術に関する知見」とは、科学技術に関する諸学問の成果を踏まえて、製造物の欠陥の有無を判断するに当たり影響を受ける程度に確立された知識のすべてをいい、それは、特定の者が有するものではなく客観的に社会に存在する知識の総体を指すものであって、製造物をその製造業者等が引き渡した当時において入手可能な世界最高の科学技術の水準がその判断基準とされるものと解するのが妥当です。

そして、製造業者等は、このような最高水準の知識をもってしても、なお製造物の欠陥を認識することができなかったことを証明して、初めて免責されるものと解されます。

既存の知識を総合すれば、毒化したイシガキダイが千葉県勝浦市近辺の海域で漁獲されることも予測できないことではないから、イシガキダイを食材とする料理がシガテラ毒素を含有することを認識することが全く不可能であったとはいえないし、これらの知識を入手することが不可能であったとも認めることはできません。

 

そうすると、料亭側が被害者らに料理を提供した当時において、入手可能な最高の科学技術の水準をもってしても、料理にシガテラ毒素が含まれるとの欠陥があったことを認識することはできなかったことの証明があったものとはいえないし、そもそも、既存の文献を調査すれば判明するような事項については開発危険の抗弁が認められる余地はないと解すべきであるから、本件において、法4条による免責を料亭側に認めることはできないということになります。

料亭側は、シガテラ毒魚の識別が著しく困難であること、シガテラ中毒の有効な予防対策がないことをも免責の根拠として主張しましたが、法4条の規定する証明がされない限り、たとえ欠陥の発生の防止措置や発見方法が存在しないことが証明されても、製造業者等が製造物責任を負うことを免れるものではないとし、このような料亭側の主張は退けられました。

 

最後に

食品は、その性質上、無条件の安全性が求められるので、病原微生物に汚染された食材によって食中毒を起こした場合、調理・提供すればその責任が問われます。

微生物学的にハイリスクな食材は、調理・提供する側が、その安全性について評価し、食材の選択方法、仕入れの厳格なチェック体制を整備することが重要です。

 

参考文献

東京地方裁判所民事第4部

平成14年12月13日判決言渡平成13年(ワ)第12677号 損害賠償請求事件判決

判例タイムズ1109号285ページ、判例時報1805号14ページ